社会リズム・対人関係療法

疾患

僕は2011年9月に適応障害と診断されました。
その際には抑鬱状態が続き、1ヶ月の休職を余儀なくされました。復職後はすぐに週5日、1日8時間のの通常勤務に戻りましたし、それでいいと思ってました。

無知でした。

その後も何かにつけて希死念慮が起きて、色々と事を起こすのですが、何しろ自分の知識不足も原因の一つではないかと思うようになりました。

そうしているうちに僕の感情が荒っぽくなり、周りに迷惑をかけるようになり、そこで初めて

双極性障害

と診断名が変わったのです。鬱病と双極性障害の見分けるのは非常に難しいとされています。なぜかと言えば、双極性障害も抑鬱状態があるからです。双極性障害と診断された患者が全体の50%が無症状の時期が占めて、その中での約90%は鬱状態であり、残りの5%程度が躁状態だと言われます。

つまりほとんどの状態が鬱状態か、もしくは抑鬱状態だということです。その中で躁状態が起こらないと双極性障害と診断されないということです。だから医師としても普通の鬱なのか、双極性障害の鬱なのかの判断が難しいということです。

そして双極性障害の鬱は普通の鬱より長くそして重いとされています。さらに鬱や躁状態を繰り返す事で、症状が出る間隔は短くなっていくと言われます。

それを知った僕は色々本を買っては病気に関することを知識を深めていきました。
その中で知ったのが

社会リズム・対人関係療法

というものでした。
これは大きく2つに分けて考えます。
ひとつは社会リズム・・・つまり自分の生活リズムを記録して、1日の中で、そして1週間のなかでどういう行動をとった時にストレスを感じるかを調査するものです。
例えば起床時間、残業があったりとか、家族と触れ合うとか、遅くまで起きてゲームをやったりとか、具体的に記録していきます。そうすると
「何が起きた時にストレスを感じるか」が明確になっていきます。

季節的な記録も残しておくと、どの季節でストレスを抱えやすいか、わかってきます。その時期がわかれば、鬱になる事への予防ができることです。これは鬱や双極性障害を治療することにおいて、とても有効であると分かっています。

かといって鬱が起きない時期だからと言って薬を飲むことをやめてはいけません。飲むのをやめると必ず症状が再発しやすくなるからです。薬にはそういった予防の効果もあるのです。

もうひとつの対人関係療法です。
これは調査の結果、わかったこととして
「鬱病になる前には、対人関係上の問題や変化が多く起こっている」
「鬱病の経過は身近な対人関係の質に大きく左右される」
「病気になることによって身近な対人関係も影響を受ける」
という観察の結果、まとめられたのが「対人関係療法」です。

これには5つの領域があります。

ひとつは「悲哀」です。
大切な人が亡くなった時、次のようなプロセスをたどります。
否認の時期=「信じられない」「こんなことあるはずがない」と喪失そのものを認められない時期
絶望の時期=「私はもう生きていけない」「あの人を失った私の人生には何の価値もない」と人生に絶望する時期
脱愛着の時期=亡くした人へのしがみつきが終わり、他の人にも心を開ける時期

この「悲哀」という問題領域を過ごさないといつまで経っても故人に対する気持ちが残り、鬱状態が長引くと言われます。悲しむときはむしろはっきりと悲しむことの方が、後々気持ちの切り替えが早くできるということです。

これに付随して「双極性障害に対する悲哀」というものがあります。ご存じのとおり双極性障害という病気は一生続き、投薬治療もそれと合わせて一生続くのです。
それまでの自分は何ともなかったのに、突然双極性障害などという病気になって、一生続くなどと診断された時、自分のそれまでの人生を亡くした気分になります。
しかし「双極性障害に対する悲哀」ということを意識して、それまでの自分は亡くなったかもしれないが、それを乗り越え病気と付き合いながら生きていく、と考えることです。

3つ目の問題領域として「役割をめぐる不一致」というものがあります。人は他の人に対して何かしらの期待をしており、その期待にズレがあるとストレスを感じます。仮に全く関係ない人がいたとしたら、その人に対して「まったく関係のない」という役割を期待しているわけです。

そうした相手に対する役割の期待にはどんなものがあるかというと

  • 相手に期待している役割は妥当か
  • 期待はちゃんと伝わっているか
  • 相手はどういう役割なら引き受けてられるのだろうか
  • 相手が自分に対して期待しているのは本当にそういう事だろうか
  • 頼んだら違う期待に変えてもらえるだろうか

このような相手に対する役割のズレが生じた時に人はストレスを感じるわけです。家族や会社の同僚などに対して「やっぱり自分は怠けているんだ」と自分を責める人もいます。自分を責めると病気はますます悪くなるので、良い結果にはなりません。
また鬱状態の時もイライラすることも多いのですが、この時の本人の期待は「なんだかイライラするから何とかしてほしい」「家族や同僚なんだから、思いやりを持ってもっと感じよくするべきだ」などと思います。こういったズレがストレスとなります。これを「役割期待の不一致」となるわけです。

鬱状態になるとコミュニケーションをする気力もなくす事も多いですから、それがますますズレを広げることになります。コミュニケーション取るのが難しいという知識を共有し、そんな時にもズレを広げないための楽なコミュニケーションの方法

  • 少しでも調子のよい時間を選ぶ
  • たくさん質問をしない
  • 本当に大切な事だけ簡潔に話す
  • 簡単なメモを使って本人のペースで読めるようにする

などを症状の落ち着いている時に決めておくとよいでしょう。

4つ目の問題領域は「役割の変化」です。
生活上の変化にうまく適応できずに躁鬱エピソードが起こる時の治療焦点として選ばれます。
私たちの生活には色々な「変化」が起こります。社会的な立場の変化、生物学的な体の変化も起こります。どんな変化も生体にとってはストレスであり、変化に適応するために心身はバランスを調整します。変化に対応したバランスの調整が上手く行われないと何らかの健康上の破綻に繋がります。その一つが双極性障害のエピソードとなります。

この変化を乗り越えるポイントは自分の気持ちを感じて、肯定し、それを周囲の人と分かち合うことなのですが、こういう状況ではそのプロセスを踏みにくくなります。
自分がこうなってしまった、こういう事を起こしてしまった、ということへの恥や罪悪感のために起こったことを振り返り、自分の気持ちに触れ、それを肯定するという作業は難しくなり、それを分かち合うべき周りの人たちは自分にネガティブな感情を抱いているような状況だからです。

ただ、その「変化」を乗り越えられないと次の躁鬱エピソードにもつながってしまいます。そのためにもまずは「自分がどんな気持ちであるか」をよく知っておくことが大事です。「とんでもない事をしてしまって恥ずかしい」「人と距離が出来てしまって寂しい」「自分が価値のない人間だと思う」など自分が本当に感じている気持ちを率直に伝えている限り、よほど悪意のある相手でなければ伝わります。まずは

「否認したくなりたくなる自分の気持ちを優しく認める」

ところから始めましょう。
また役割の変化は社会リズムの安定が重要です。何かしらの変化が予想されるときは社会リズムが崩れないように最大限の準備をしましょう。
出張や残業などの小さなところから、転職や結婚、出産など大きな場面でも同じよう準備が必要です。出来る限りの準備をし、どうしても社会リズムが乱れるような変化であれば、そもそも引き受けるかどうかを検討しましょう。
例えば勤務時間が不規則になるシフト制への異動などは引き受けるべきではない変化だと言えます。事前の準備で予防できることなのかを見極めましょう。

常に自分の社会リズムを優先させるという姿勢を崩してはいけません。
安定した社会リズムで自分を癒そうとしてみてください。

5つ目の「対人関係の欠如」は上記までの問題領域が該当する場合にはあまり選ばれません。主に「周りに人達に満足できないタイプ」の人は他の人に対して「無能な人」とか「やる気がない」と感じることが多く、結果として孤立してしまいます。

  • 自分が相手に何を期待していて、相手は実際に何をしてしているのか
  • 自分がしている期待は妥当なのか
  • 自分は相手と何をコミュニケーションしているのか

などを振り返ってみます。
人間は思ったほど「有能」「無能」に分かれるわけではありません。対人関係から得る満足は決して相手の「有能さ」だけから来るわけではありません。相手との心のつながりを感じる時に満たされ、感じるものです。相手の不完全さにも寛大になります。
「有能」「無能」というところに留まっていると自分の気持ちを率直に分かち合うこともできませんし、結果として対人関係から得られる」はずの満足とは無縁の人生になってしまいます。

「病気の経過の中で人との関りを絶ってしまったタイプ」の方は以前親しかった人たちに連絡をしてみることをお勧めします。

  • お互いの間に怒ったことが何だったのか、病気のどういう症状によるものだったのか
  • そのことについて自分がどう振り返っているのか、病気として受け入れられるようになった。同時に相手が受けた傷も認識している。当時は病気として受け入れることができなかったのでうまく対処できなかった。
  • 今後相手との間にどういう関係を希望しているのか、病気を頭に入れた上で再び人間として親しくしてほしい、病気に振り回されないためのルールが必要であれば話し合って決めたい。

これらのことを誠実に伝えれば、よほどの事がない限り受け入れてもらえてもらえるものです。もし受け入れてもらえなかったとしても、それは相手の心の準備が追い付いていないだけで、不適切な要望をしたということではありません。

最後に双極性障害に対する方法として覚えておきたいのは

「周囲」VS「患者さん&病気」
となりがちなのを
「患者さん・周囲の人々」VS「病気」という構造を作ることです。

患者さんは決して望んで病気になったわけでもなければ、病気を自在にコントロールできるわけでのありません。特に双極性障害は努力すれば縁が切れる病気ではありません。病気になったことで誰よりも人生にダメージを受けているのが患者さん本人であることは間違いありません。

こうした構造を構築しておくことで結果として患者さんを支える体制がを作ることができ、対人関係療法の問題領域の解決にもなり、双極性障害の経過にも大きなプラスとなることです。

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