僕の主な音楽活動は「宅録」。いわゆるDAW、DTMです。(ここではDTMで統一します)DTMとギターの録音となると、録音方法は2つ。
- アンプの音をマイクで録音
- アンプシミュレーターを使う
ということになります。これはどちらが正しいということではなく、
- 好みの問題
- セッティングの煩わしさ
に分けられます。
まずマイクの録音ですが、これは色々な問題が生じます。ひとつは普段聞いている自分のギターの音と録音した音は違うということです。どういうことかと言うと、普段耳にするギターアンプからの音は立った状態で50cm~1mくらい離れていて、高さも自分の耳の位置・・・165cm~175cm離れているわけです。なので僕の実感としては、立って弾いてることはかなり音がこもって弾いている印象があります。そのセッティングの状態でしゃがんでアンプのスピーカーに耳を近づけると、明らかに音の高音が強く出ています。
立ったままだとこもって聴こえるから、トレブルをあげて高音を調整するけど、実際にアンプの近くでは元々トレブルが十分出ているので、高音が大きくなりすぎる、ということになります。
何が困るというと、その状態でマイクを立てる位置をどうするかということです。普通、アンプの音を録音する場合はスピーカーから2~3cm離れた位置にマイクをセットします。そうすると先ほどしゃがんで聴いたアンプの音よりもさらに近くなるため、特に高音はかなり強調された音になってしまいます。
この辺はマイクの種類などによって変わってくると思うので一概に良いとか悪いとかを決めることは出来ませんが、印象として「マイクで録音する音と実際に聴こえる音は違う」ということです。
これを解消するのが「アンプシミュレーターの使用」です。シミュレーターと聞くと何か偽物のような感じも受けますし、初期の頃のシミュレーターは上記のような本当に録音した音なのか疑わしい音になっていたこともありました。しかし最近のシミュレーターは本当によく出来ており、マイクから拾った音と変わらないほどです。そして実際の録音では困難だった、マイクとアンプの距離を調整することが出来る点が優れています。離れるシミュレーションをすることで空気の間を広く取り、より広がりのある音が録音できます。気に入らなければ、またシミュレーションで近づけたり角度を変えたりすることで、理想の音に近づけていくことが可能になったわけです。
この辺りはまさにDTMならではの技術であり、実際のマイクを近づけたり遠ざけたりするのは、かなり手間がかかり、しかもそれが理想の音なのか、本物のアンプから出たような音になっているかを確かめることが難しいのです。
そういう点でアンシミュレーターはマイクの位置決めにおいて大変優れていると言えます。
次の点はセッティングの問題です。
実際のマイクをセッティングするには前述のとおり、まずマイクが必要です。そしてマイクスタンド、シールド、ミキサー、録音媒体(パソコン、一昔前はMTR=マルチトラックレコーダー)などが必要です。もちろん機材が増えれば電源の確保も必要です。マイクの種類もダイナミックマイクかコンデンサーマイクかの選択があります。コンデンサーマイクは48Vの電源が別途必要になります。これを録音の度に出したりしまったりするのは、面倒です。出しっぱなしにできるくらい大きな家の部屋があるとか、最初からセッティングしてあるスタジオとか、そういった環境にないと、やはり面倒な事です。
ここでもアンプシミュレーターの方が優れています。シミュレーターは最初からギターを最高の状態で録音できる、または録音できるようなセッティングが始めから出来ているので、いちいちマイクを立てるとかシールドを這わすとか、そういった必要は全くありません。シミュレートしたデーターを残しておけば、いつでもそのセッティングは再現できます。こういった点でもシミュレーターの方が便利です。
録音に関する好みの問題があります。上記のような「本物のマイクで録音した方が、自分の理想の音が出る、録音できる」ということであれば、毎回録音するためのセットを出し入れするとか、マイクの位置を調整する「楽しみ」があります。今回はマイクの中心からちょっと外して立ててみようかとか、離して空気感を出してみようとか、「人間味のある」録音が好きな人は、好みとしては、全くありだと思っています。
対してシミュレーターの場合だと、上記のマイクの出し入れはせずともよく、やマイクの位置までDTM上で決められるので、煩わしさがありません。しかし何でも出来てしまう為、いつの間にかいつも同じセッティングばかり使うことになり、後はあんまり使うことがないシミュレーションも存在します。
僕個人的には、出来ればマイクで録音したいです。これは片付けがどうとか、音質がどうとかの問題ではなく「弾きやすさ、聴き取りやすさ」の問題です。上記のようなDTMを用いて録音は欠かせないのですが、僕の場合は実際にアンプの音を背にしないと、弾きにくいのです。実際の音をモニター・・・聴きながらでないと、どうもうまく弾けません。DTMでは基本的にヘッドホンを使うことになるのですが、ヘッドホンで聴きながら演奏するのと、アンプの音を直接聴きながら演奏するとでは、随分差があるように思います。
しかしこれは音の良さ抜きの話です。最も大切なのは
「それが自分の理想の音になっているか」ということです。
- アコースティックな音
- クリーントーンの音
- クランチ、オーバードライブの音
- ディストーションの音
- ハイゲインの音
- ファズの音
これらの好み、または必要としている場面で使える状態になっていることが一番大切だと、僕は思っています。
最後に僕が使用しているシミュレーターの紹介をします。

M1と書かれた緑色のペダルはAMTのM1というアナログのプリアンプ兼スピーカーシミュレーターです。M1と名乗るだけにMarshallのJCM800をイメージした音と言われています。800は今で言うところのハイゲインと比べれば歪みが足りなくて、むしろゲインを絞ってクランチ~オーバードライブ程度で使うとシャキッとした高音が出せます。プリアンプでもあるので、パワーアンプに接続すれば通常のアンプとしても使うことが出来ます。我が家にはLINE6のPOWER CAB112、というパワーアンプ兼スピーカーがあるので、もってこいの環境です。DTMではスピーカーシミュレータとして使用するわけですが、リアルかどうかはともかく、適度な柔らかさを得られて、上記のシャキッとした高音がうまく馴染む感じがとても気に入っています。
E2は同じくAMTからリリースしているアナログのプリアンプ兼スピーカーシミュレーターです。こちらはENGLのシミュレーションということで、かなり歪みが強く音作りも多彩です。個人的にはこれ単体だとソロには歪みがもう一つ欲しいので、普通のオーバードライブペダルを用いています。
最後に紹介するのはTECH21からリリースされているBlondeというプリアンプです。スピーカーシミュレーターとは書いていないのですが、宅録でも十分使うことが出来ます。
フェンダーアンプを意識していると思われますが、クリーン、クランチと音作りができる反面、とてつもなくハイゲインにすることも可能です。キャラクターというコントロールとゲインとの配分でそのあたりの調整が出来て、とても面白いプリアンプです。
あまりアナログのアンプシミュレーターはなくなってきつつあります。なぜならDTM・・・つまりパソコン上でほぼすべての録音要素が構築できてしまって、必要がなくなってきてしまったからです。確かに既に前述したマイクの位置とか機材の用意とかはすべてインストールされています。
そんな中、アナログなんだけどアンプシミュレーターとして音が好みで、どれを使うかエフェクター感覚で選んだり楽しんだりする喜びを、このペダル式アンプシミュレーターから受けているのです。
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